早稲田大学「内海先生のドロップアウト塾」 2020年 第1回第4回講座 内海信彦ヴァーチャル・サマーワークショップ 【ニューメキシコ・タオスで近代世界システムの終わりを内海がプエブロインディアンの友人と語り合う】 <日時> 2020年8月16日(日) 午後1:00~4:00 <開催方法の詳細> ※zoomにて開催いたします。 (詳細は下記お問い合わせよりご連絡くださいませ) ---------------------------------------------------------------------------------------------------------- タオスは想像以上に変わってしまいました。1000年以上の歴史があり、スペインや合州国陸軍と闘ってきたタオスプエブロは、プエブロインディアンのリザベーションです。1996年に最初に訪れた時と比べると、今のタオスは激変してしまいました。 アメリカ国家は、今日もなお先住民であるアメリカンインディアンに対して戦争を仕掛け続けています。私がアメリカを頻繁に訪れていた1980年代から90年代以来、アメリカは一貫して戦争国家であり、常に戦時体制下にあり、その結果としてアメリカ国家の没落が進み、経済はリーマンブラザースショック以降、依然として苦境にあり、中産階級の急速な凋落が進んでアメリカ社会は混迷を深めていると思います。無論、私の数多い友人たちのような、アメリカ社会の一部を構成する一人一人の善良で良心のもとに生きる人々は健在です。しかしながら1%の支配層が99%を圧倒して支配する構造が崩れ始めながらも、未だ支配の延命に必死になっているのではないでしょうか。こうした事態の中で、そのしわ寄せがアメリカンインディアンを直撃しています。アメリカンインディアンの友人は「これは戦争だ」と言いました。 タオスはもはや何者からも超越した聖地でも桃源郷でも理想郷でもありません。「イージーライダー」に憧れた腐ったいちご白書世代の逃避郷ではあっても、ここはある意味で「日本」です。タオスは一昨日再訪してきた重度の核汚染都市ロスアラモスに近接した地域であり、放射能汚染された被曝地帯である可能性があります。もともとほとんどなかったガン死が60年代以降急に増えたという事実があります。しかし、そうでありながらも私はこの地で偉大なる大自然と大いなる存在を感じ、畏怖し、恐れ戦くことで、この地を敬いここで暮らす人々に限りない共鳴を覚えるのです。 私たちがアメリカンインディアンの一人一人と親しくなったとしても、決して忘れてならないのは、彼ら彼女らと心から交わることはきわめて困難だということです。私自身、アメリカンインディアンとのかかわりを持って20年近くになり、数回ほどここタオスに来ていますが、今、タオスにいてそのことが身に沁みてきて、本当に苦悶し続けています。一度や二度アメリカンインディアンのところに来て日本に帰り、どっぷり惰性に流された保守的日常に浸り、現状肯定的な金銭のための生活の中で腐りきっている人間が、アメリカンインディアンと精神的なお友達になれたという錯覚に陥り、核汚染と差別社会日本の現状から逃避して、国家や企業と闘うことすらせず、まがい物の「スピリチュアル」を夢想しているジャパニーズワナビーさんたちが存在します。インディアン文化の理解者のように振舞って表層の文化的虚栄に浸ったり、インディアンクラフトに囲まれて勘違いしているようなワナビーであることに嫌悪感を抱きます。でも私自身がそのようなキッチュなスノッブではないと言い切れるでしょうか。タオスの大いなる存在は、ここに来るまでに、そしてここにいる間、ちょうど今も雷鳴を轟かせています。ウツミ、お前は何をしに来たんだと、サンダースピリットの言葉がそのように聞こえてきます。 タオスプエブロの戦士であるアメリカンインディアンの友人R、そしてDと再会しました。Rとは魂の兄弟だとお互いに思っていましたが、彼、そして彼女とはその通り、変わることのない友情を確かめ合うことができました。Rが話してくれた限りなく興味深い内容についてはあらためてご報告させていただきます。しかし10年ぶりにあった彼と彼女を取り巻く状況は大きく変わっていました。訪れる方が勝手に聖地だとか、魂の故郷だとか言ったところで、彼ら彼女らが置かれている状況は、極めて困難に満ちています。差別、病気、貧困、自殺、失業、麻薬、アルコール中毒、離婚、育児放棄、家庭内暴力、暴行などは何処の社会にでもあることですが、ここでも深刻です。異常気象が続き、コーンメーカーとして農民として大変な苦労があるようです。1000年来、育ててきたコーンが思うように育たず、居留地にできたスーパーマーケットで誰がどこで作ったかもわからない遺伝子組み換えで作ったモンサント製コーンをインディアンが食べるということがとっくに始まっています。部族社会で賛否両論があったカジノの経営でインディアン社会がある程度豊かになった結果、生じてきた負性の代償は計り知れないようです。 タオス周辺部は白人の植民地のような様相を帯びてきて、バーガーキングやマクドナルド、タコベルやスターバックスという最悪の死の商人の店が立ち並んでいます。スキー場とゴルフ場は、私が最も嫌悪する場所です。成り上がりの快楽の生贄に、タオスの聖なる山河は大規模に化学汚染しています。 今やプエブロインディアンの集落は、白人たちの町から押し寄せる邪気と金銭教に飲み込まれるのではないかと、心底胸が痛みます。私の友人の中にも、生き方を巡る分断と不一致が進んでいます。至福の時間を過ごせた友人のRは世界各地でも公演したことがあり、日本でも私の関係で演奏をしたことがある音楽家ですが、あまりにもフェイマスなビジネスマンになってしまい、コマーシャルになってしまった私の知るもう一人の友人とは、部族のセレモニー以外はともに演奏しないと悲しげに語っていました。金と欲、出世と栄誉の代償でここまで人間は変わってしまうのかと思うほどです。 聖なる山もユネスコの世界遺産であるプエブロの建物も観光客から見られすぎて疲れ切っています。観光で街はある部分潤いながらも疲弊し、憔悴しきっています。そして観光客自体が経済状況の悪化で明らかに減りました。20年前に私が初めて知った部族的共同体の今は、消費と生産、資本と賃労働の関係性によってバラバラに寸断されていて、世代間の分離や価値観の相違が顕著になっているように思います。ようやく到達したタオスで、天国と地獄、向こう側とこちら側を見たような気持ちで、複雑な心境です。解放された部分と、かえって苦悶が深まった部分とがアンビバレントになってきました。まことに不条理な現実を垣間見た想いでいっぱいです。滅びゆく危機に曝されたマイノリティでありながら、懸命に現実と格闘しているタオスから多くのことを学ぶことができたと思います。「ここがグラウンドゼロだ」という言葉を前回、書きましたが、「ここは福島後の日本だ」とあらたに思うようになりました。 ブラッククロウが旅の始まりから終りまで私の傍で啼いています。「お前にはまだまだ過去からの手紙を受け取るには早すぎる」と。 (文=内海信彦) ---------------------------------------------------------------------------------------------------------- 【内海先生のドロップアウト塾について】 2012年5月より開講した本講座は、早稲田大学商学科教授東出浩教先生の主宰する「早稲田大学アントレプレヌール研究会」の研究プロジェクトの一環として開かれます。講座では国内外で数多くのワークショップや講義を開催してきた藝術家・内海信彦氏による連続講義を通じ、歴史に対する我々の責任を確認すること、文化におけるスピリチュアリティを知り、歴史・社会・文化における革命の意義を問い直すことを学びます。そして、講義を通して若者らが自らの生き方を主体的・創造的なものへと変革していく可能性を、受講者の皆様と共に探究していきます。 【お問い合わせ】 ドロップアウト塾事務局長 小野太伸 メール:[email protected] 電話:090-8615-6112
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内海 信彦
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